人工知能と神経科学の融合により、精神神経疾患の神経画像バイオマーカーや新規解析手法の開発を進めています。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的研究領域(B)および科学研究費補助金(B)の支援を受けています。

KEY WORDS
#精神神経疾患
#神経画像バイオマーカー

Highlights

(1) Development of neuroimaging biomarker of neuropsychiatric disorders (AMED)

精神神経疾患の診断は医師の主観的判断に依存するため、客観的なバイオマーカーの開発が求められています。最近の研究では、安静時fMRIによる非侵襲的な機能的結合の調査が精神疾患のバイオマーカーになることが報告されており、その発展が期待されています。しかし、現在利用可能な手法の多くは診断に十分な精度を有しておらず、従来の解析手法の限界が示唆されています。本プロジェクトでは、安静時の脳状態情報の時系列を線形結合モデルで解析し、課題遂行時の脳状態情報と課題関連情報を線形結合モデルで分離し、脳状態情報と課題関連情報を反映した神経細胞反応の因果関係を光遺伝学で特定することにより、マウス安静時fMRI解析の精度を高める方法を開発します。ヒトのfMRIの専門家(アラヤの近添博士)とマウスのカルシウムイメージングとオプトジェネティックスの専門家(生理研の上妻博士)の協力により、ヒトとマウスの双方から研究が進められています。

(2) Emotional informatics (Grant-in-Aid for Transformative Research Areas(B))

感情が人間の行動に及ぼす影響は、人間科学の最も基本的なテーマです。しかし、個人の主観的な感情は目に見えないため、感情を変数とした人間行動の数理モデルを構築することは容易ではありません。近年、機械学習技術の飛躍的な進歩により、神経情報や身体情報から隠れた感情情報を解読することが可能になりました。我々は、脳活動から解読された感情情報をもとに、人間科学分野において新しいモデル・概念・理論を提供していきます。

(3) Correspondence between AI and brains

人間やコンピュータは、感覚的な事象から主観的な価値を導き出すことができるが、そのような変換過程は未解明の領域です。本研究では、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)とヒトの対応する表現を比較することにより、未知の神経メカニズムを解明することを目的としています。
具体的には、絵画の美的評価を予測するためにCNNを最適化し、マルチボクセルパターン解析によってCNN表現と脳活動の関係に着目しています。一次視覚野と高次連合野の活動は、それぞれ浅いCNN層と深い層での計算と類似していました。視覚から価値への変換は階層的なプロセスであり、ユニモーダルからトランスモーダルな脳領域(デフォルトモードネットワーク)をつなぐ主勾配と整合的であることが証明されました。また、前頭葉と頭頂葉の活動は、目標駆動型CNNによって近似されたました。その結果、CNNの隠れ層の表現が脳活動との対応関係によって理解・可視化され、人工知能と神経科学の類似性を確認することができました。
本研究のプレプリントは、biorxivで公開されています。

Members

近添 淳一 MD, Ph.D.
リサーチチームリーダー
東京大学大学院医学系研究科修士課程修了。トロント大学、コーネル大学にてアダム・K・アンダーソン氏のもとでポスドク。生理学研究所准教授を経て、2021年よりアラヤ入社。感情を持つAIの創出を研究テーマとしている。現在は、fMRIとディープラーニングを組み合わせて、感覚情報から価値・価値がどのように生まれるかを理解することに注力している。最新の研究成果は、上記リンクまたはこちらをご覧ください。
船井 正太郎 Ph.D.
チーフリサーチャー
2010年に東京大学大学院で博士(理学)を取得した後、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などで物理学の研究に取り組む。2016年から機械学習の研究を始め、2019年から異分野連携研究を通して脳の研究も開始。2022年にアラヤに入社。物理の知識をベースとして、機械学習を用いた脳活動のデータ解析を推進している。
Pham Quang Trung, Ph.D.
シニアリサーチャー
アラヤのシニアリサーチャー。名古屋工業大学大学院で博士学位(工学)を取得した後、3年間生理学研究所で特任研究員を経て、令和4(株)アラヤ入社。脳の機能、認知機能の計算論モデリングに興味深い。IEEE、SICE、JNSSなどの会員。発表された論文はこちらからご覧ください。
丹羽 開紀
リサーチャー
2022年に愛知県立大学大学院を中退し、アラヤに入社しました。精神的な苦しみの軽減を技術を使って目指しています。
Dan Lee
シニアリサーチャー
アラヤのリサーチャー。トロント大学にて心理学の博士号を、ウォータールー大学にてコンピュータ工学の学士号を取得。感情と価値、その表現、そして知能におけるその機能に興味を持つ。